「いいわ。一条隆明を好きになるように努力するから」

「おっ、前向きになったじゃないの。よしよし、今日はちゃんと奢ってやる」

「ほんとっ? ありがとーアキちゃん、愛してる~!」

ガチン、とジョッキをかち合わせ、「水琴の未来にかんぱぁーい!」とアキちゃんが叫んだ。



「一条隆明には会ったの?」

むぐむぐとから揚げを食べながら、アキちゃんは言う。

「ううん、まだ。12月に初顔合わせよ。年が明けたらすぐに一条の50周年パーティがあって、そこで婚約発表されるわ。各界の著名人がわんさか集まるパーティでよ。……今から気が重いわ」

「それは怖いわね。一気に有名人になれるわね、『斎賀水琴』は」

「……そこがちょっと怖いところよ。でも、覚悟を決めるわ。私はヴァイオリンを続けることで父を支えるんだから」

ぐいっとビールを飲み干し、店員を呼んで飲み物の追加をオーダーする。