平和の象徴である白い鳩が蒼穹に向けて飛び立つ。

それを見上げながら、届かないものに手を伸ばす私の背を、気高くも優しい鐘の音がそっと見送る。

大丈夫だと。

その先には必ず光があるからと、教えてくれる……そんな幻影が見える。


『和音くんはどんな鐘を鳴らしたいの?』


あの日訊いた答えが、今、返ってくる。

夏の空のように鮮やかな蒼で、すべてを大きく優しく包み込む。

聴いた人に笑顔を届ける。

そんな鐘の音だ。




和音くんの演奏が終わった後。

一瞬の静けさに包まれたホール内は、一転して割れんばかりの大喝采に包まれた。

「……すご」

拍手をしながら、アキちゃんが感想を漏らす。

「アンタの生徒、何よ。ホントに中学生? これじゃあ橘律花を超えるのも時間の問題……」

と、私を見たアキちゃんは。

一瞬黙って、それからポン、と。私の肩を叩いた。

「終わらせたら、飲みに行こう。奢ってやるから」