「初めまして、橘律花です」

長い黒髪を揺らしながら微笑む天才ヴァイオリニストに、いつも堂々としているアキちゃんもさすがに少し硬くなっているようだ。笑顔が引きつっている。

「初めまして、城田アキです。水琴がいつもお世話になっています」

……貴女は私の親ですか。

心の中でそう突っ込む。

「いいえ、こちらこそ。水琴ちゃんにはいつも子どもたちがお世話になって。今度アキさんもウチにいらっしゃって。一緒に演奏でもいかが?」

「え、ええっ、光栄です……」

アキちゃんは目を丸くしながら何度も頭を下げた。



それから橘夫妻と花音ちゃんとは別れて、アキちゃんと2人でホールの中央の席に座った。

「アキちゃん、今日バイトは?」

「急にシフト変更になって暇になったの。で、まあせっかくだから、アンタの教える天才兄弟の演奏でも聴いてみるかな、と思ってさっきメールしたんだけど」

「ああ、ごめんなさい、電源切ってたわ」