「どうしようアキちゃん。手が震えてきたわ」

「今更。嫌なら引き受けなきゃ良かったじゃないの」

「だって、律花さんの申し出を断るなんて出来ないじゃない!」

憧れの天才ヴァイオリニストの、たっての願いを断るだなんて。

私には出来なかった。

それに、律花さんは私のヴァイオリニストとしての才能を認めてくれていた。そのことが何より嬉しくて……思わず、ふたつ返事で承諾してしまったのだ。

……あとで物凄く後悔したけれど。


「ま、いいんじゃないの。人に何かを教えるなんて結構大変なことでしょ。余計なこと考えなくて済むかもよ」

アキちゃんの言葉に、私は門の向こうに見える森に目をやった。

「……そうね」

余計なこと……確かにそうだ。

いつまでも終わったことを引き摺って、荒れた生活をして、ダラダラと毎日を過ごしている自分が駄目だってことくらい、解っている。

変えられるものなら変えたい。

そのきっかけに、出来るだろうか……。