なるほどなるほど。了解。
でもなー、今のこのかわいいイノリの独占欲なら萌えもするが、大澤だしな。
つーか、独占欲なのか?
イノリのは多分懐きすぎたゆえのものだろうが、大澤は一体?


……わからん。


9年後に久しぶりに会った(はずの)あたしに対して、独占欲なんて湧くはずないしな。
生真面目な性格で、約束を反故されたことに対して怒ったのだろうか。
うーん、でもあいつ、生真面目なのか? 
結構授業サボってたし、寝てたし、制服着崩してたし。遅刻・早退してたし。


「ミャオー、苦しいってばー」

「んあ? ああ、ごめんごめん」


すっかり考えこんでしまっていた。
腕を解いてやると、不機嫌そうなイノリの顔。


「おれ、子どもじゃないぞ。こんなことするなよな」

「はは、了解。ごめんね?」

「もう」


無意識なのだろうか、ぷうと頬を膨らませる。

うーむ。このかわいいイノリが大澤、なんだよな。
まだ、いまいち繋がらないんだけどさ。
顔立ちに面影があるし、状況証拠からして本人なのはわかってるんだけど、感情がついていかないというか。
でも大澤、なんだよなあ。

と、イノリが小首を傾げた。


「ミャオ? おれの顔ばっかり見てどうしたの?」

「ん? ううん、なんでもない」


へへ、と笑ってごまかして、ハンカチを渡した。


「もう子どもじゃないんなら、自分で拭きな? 口元、汚れてる」

「あ、うん」


ごしごしと拭う姿を見つめた。
イノリが大澤だということは、イノリは今日のこのときを9年後も覚えててくれるんだなあ。
怒るくらい、約束を大事にしてくれるんだなあ。


「ありがとね、イノリ」

「え? ハンカチ借りたのはおれだよ?」

「そうだけど、ありがとね」


きょとんとしたイノリが、よくわかんないけど、と言って笑った。
つい、と車窓を見れば、すっかり暗くなった町並みに重なって、自分の顔が写っていた。


「そろそろK県に入るぞー」


三津の声に、3人で返事を返した。