「化け猫かー。大澤って女の趣味、地味だな」


おい。今呟いたやつ、前に出ろ。
地味ってのは事実だけど、ムカつくことに変わりねーぞ。


「えーと、だから人違いなんで。あたしは別に関係ないんで」


イラつきを隠せないまま、ぶっきらぼうに言った。
迷惑極まりない。なんであたしが渦中の人みたいになってんだ。


「穂積も、変なこと言わないでくれる?」

「あー、ごめん。オレの勘違いだったんだね。本当にごめんね、ミャオ」


むう、と穂積を見上げると、申し訳なさそうに眉を下げて謝られた。


「ま、まあ、気をつけてくれたら全然いいんだけどね」


謝意は十分感じられるいいお顔だったので、許してやろう。


「大澤も、ごめんなー。間違いなんだろ?」

「こいつをそんな風に呼ぶなっつってんだろ」


お前、馬鹿か。馬鹿なのか、大澤。
収束させようとしてるのに、混ぜっ返すのか。

ぎゅう、と拳を握る。
ああ、がつんと殴ってしまいたい。


「……仕方ないな。じゃあ、これからは美弥緒って呼ぶことにしようかな。いい?」


はい、穂積のがオトナでした。あっさり譲歩。
まあ、こだわるような問題じゃないしね。


「いいよ。呼び方なんてなんでも」

「じゃあ、そうする。大澤も、それでいい?」


譲るとかいう言葉を知らないらしい大澤も、ようやくこくんと頷いた。


「なんだ? よく分からんが、モテるんだなー、茅ヶ崎」


黙って寝てろ、森じい。


――穂積の譲歩でようやく事態は落ち着いた。
あれから、


「大澤くんとは本当に何もないんだね?」


と目を血走らせた悠美に訊かれ、何度も首を縦に振ったので、それで他の女子も納得してくれたようだ。
殺気が静まったことに、心から胸を撫で下ろした。

穂積も、「オレって勘違いが多いんだよね」とフォロー? を入れてくれたし。

しかし大澤はというと、あたしをギロ、と睨んで自分の席に戻り。
それからずっと怒りを滲ませた様子だった。
さっき帰りのH・Rが終わり、放課後になったのだけど、むす、とした顔つきで帰って行った。


何怒ってんだろ。
意味分かんない。
呼び方なんてあんたに関係ないじゃんよ。


「何だか大変な一日だったねえ、ミャオちゃん」

「うん……。何だろーね、あいつ」

「変にミャオちゃんにこだわるよねえ」