今、一瞬。

 紫音が、悪魔のように見えた。

「もともと、教師って職業に未練はない。
 それどころか、ホストの仕事を干されても、ダーク・クラウンが潰れても、そんなにイタくはない。
 ……これから一生、遊んで暮らせるだけの金は、もう、とっくにあるんだ。
 オレには、な。
 だけど、あんたは違うだろう?」

 どんなに、不機嫌な顔をしていても、紫音の……村崎先生の顔がキレイに見えるから、不思議だ。

 しかも今は『教師』の顔であるはずなのに。

 たった一つだけ。

 雫の形のペンダントを服の下につけていることに気がついた。、

 彼は、視線を僅かに外して言葉をつなげた。

「未遂でも、ウリが。
 売春が見つかれば、この学校を退学させられるかも、しれない。
 ソコまで厳しくなかったとしても。
 内申書は最悪だろうな。
 ヘタに騒ぐと人生まで棒に振るかもしれないが、いいのか?」





 ……いいわけ、なんかあるはずもない。




 
 わたしは、もう。

 猫に弄ばれているネズミのような気分だった。

「……じゃあ……じゃあ。
 どうすれば……いいのよ……っ…!」

「せいぜい、無難なバイトでも始めて地道に稼ぐんだな。
 でなければ………」


 紫音は、わたしの目をしっかり見ながら言った。







「オレが。
 あんたのキスを、一回一万で買ってやるよ……!」