そして。

 わたしを見上げた瞳は。

 そのまま、わたしに近づいて来た。




 あ……

 ………キスを。

 わたしに、キスを、するつもりなんだ……!




 ……そんなことされたら。

 わたしは、もう、ダメになる……!

 加藤先輩よりも、他の誰よりも、紫音を好きになってしまう。

 わたしを買っただけの紫音を。

 わたしのことなんて、愛してくれない紫音を。

 加藤先輩よりも、もっとひどいことをされて、捨てられてしまうのに。

「いや……ぁ!」

 力いっぱいの拒否は。

 わたしは『何』から逃げたかったから、なのか。

 思いがけないほどの、力が出たわたしの腕は、紫音を一度、引き剥がすことができた。

「……守屋は、そんなに、オレが嫌いか?」

 紫音が、薄く笑った。

 と、同時に。

 遠くで、お昼休みの終わりを告げる鐘が鳴る。

 それを聞いて、紫音は、目を伏せた。