「あ……
 や……っ……!」

 紫音は、そのまま、わたしを抱きすくめた。

 強い、手だった。

 身動きできないほどの強さで、わたしを抱きよせると、首筋にその顔を埋めて呟いた。



「……いい、匂いだ……」



「やだ……!
 やめ……て……!」




 紫音の方が……

 紫音の方が、よっぽどいい匂いだった。




 ……くらくらする。

 胸が。

 ありえないほど、どきどきする。

 心臓が、飛び出していきそうなほどに。

 おかしくなりそう……で。

 深い、闇に、落ちて行きそうで……怖い。






 ……怖い……!




 紫音は、顔を上げると、わたしを見た。

「……震えている。
 オレが怖い……?」

 ああ。

 なんで、紫音は。

 好きでもないヒトを、こんなふうに見るんだろう。

 わたしをしっかりと抱いて見上げる瞳は、黒かったけれど。

 とても色っぽく見える瞳は、わたしを捕らえて、離さなかった。