助け舟のつもりでも、派手なホストの紫音が出て来たら、父さんは余計に怒るに違いない。

 なのに。

 わたしの心配をよそに後ろで、紫音はしれっと答えた。

「守屋さんの通っている高校で、日本史を担当させていただいている、村崎と申します」

「……え」

 その言葉に驚いて、振り返ると。

 アクセサリー類を全て外し、きまっていた髪を手櫛で解いた彼がいた。




 そこに、ホストの紫音は居なかった。





 どう見ても……村崎先生だった。





 せいぜい、高いレストランで食事をする為に、頑張って着飾ったような、村崎先生が佇んでいただけだった。


「それは失礼を……いつも娘がお世話になってます!」

 父さんは。

 紫音、いや。

 村崎先生の言葉にアタマを下げた。

 なんてヒト……!

 疑り深い父さんを、たった一言の、フツーの挨拶で信じさせてしまうなんて……!

 いや、本当に先生なんだけど。

 雰囲気の切り替えの素早さに、わたしは、ただ、ただ驚いていた。