やっぱり、このヒト……!

 危険な、ホストの紫音なんだ……っ!

 ヒトの真剣な心をもてあそぶなんて!

「何がおかしいのよ!」

 今や、背中を丸めてげらげらと笑っている紫音をどついて、わたしは、くるり、と後ろを向いた。

 気のあるふりして落っことすなんて!

『好き』だって、紫音はだれにでも、簡単に言うにちがいない。

 わたしは、先輩に言うのに、ものすごく勇気が入ったのに。

「……も、帰るっ!」

「ま、待てよ。
 家までは、送るって……!」

 まだ笑いながら、追って来る紫音を振り切って、歩いて帰ろうと二、三歩進んだ時。

 前からやってくるヒトを見つけて立ちすくんだ。

「お……お父さん……」

 そういえば。

 気がつけば、帰らなくてはいけない時間を……門限をだいぶ過ぎて……いた。

 だいぶあちこち、わたしを探して歩き回っていたらしい。

 汗だくで、ぼろぼろになっている。

 父さんは、わたしを見つけると「春陽……っ!」と叫んで走ってきた。