本格的に、泣き出しかけたわたしの背中を、薫ちゃんは優しく叩いた。

「……春陽ちゃん。
 この前生まれた加藤ちゃんの子供の写真見た?
 すっごく小さくて可愛い赤ちゃんなのに。
 ふてぶてしそうな目つきは、加藤ちゃんそっくりだったわね?」

 あは。

 確かに。

 加藤先輩が嬉しそうに、サア、見ろ!

 と押し付けて来た写真の中には。

 先輩と同じ顔した赤ちゃんが、幸せそうに、笑ってた。

「人間なんて、けっこうあっさり、ぽろっと死んじゃうモノだけど、こうやって生まれてくる命もあるわ。
 死んじゃったヒトの記憶は、とても大事だけど、あたしは……
 今、生きて呼吸しているヒトが、一番大事、だと思うの」

 薫ちゃんは、優しく微笑んだ。

「今回の騒ぎで、あたしは、本当に、自分の力不足を感じたわ。
 それに、何もかも中途半端にしてきた自分にも、嫌気がさしたの」

 自分を嘲う薫ちゃんの表情は、苦い。

「今まで、あたしは本当に。
 紫音ちゃんにおんぶにだっこだったわ。
「主治医」を気取って、紫音ちゃんのカラダを見させて貰っていたけれど、それでさえ。
 ……紫音ちゃんの優しさだったわね」