「アレックス一つって簡単に言っても、手に入れるのはすげー面倒いんだぜ?
 カプセル型の風邪薬を全部開いて、ピンセットで一つづつつまみ分ける。
 それ市販の薬三箱で、一回分だ。
 じゃなかったら……」

 先輩は、わざとらしく、声を潜めた。

「コワいお兄さん御用達の、薬の売人を探して、べらぼうな値段で買うんだぜ?」

 先輩の話に、わたしはうなづいた。

「……手に入れるのが、大変なのは判る……けれど……
 昨日、紫音の具合が悪くなった時。
 わたしは側にいたのに……何も、出来なかったから。
 ……今度、何かあった時は、すぐに出せるように。
 わたしも、持っていたいなぁ、と思ったんだ」


 ふうん……

 紫音さんのためにねぇ。

 そう言うと、先輩は腕組した。

「でも。
 あの、紫音さんが、同じ失敗を二度すると思うか?」


 ……うわ。

 鋭い。

 確かに。

 わたしも……しない、と思う。

 だけど、ここで。

 一緒に紫音だったら大丈夫、とか先輩と盛り上がったら。

 ……絶対、薬は手に入れられないから……