「……」

「俺は、由香里の幼なじみだった紫音にも、薬を売りつけた……
 借金まみれだったウチとはちがう。
 金持ちで。
 文字通り文武を完璧にこなさなくてはいけない、古い家系のボンボンは、カモだと思った」

 薫ちゃんは、軽く嘲った。

「案の定、紫音は。
 俺にそそのかされて、簡単にヤバい薬に手を出した。
 ……あっという間に中毒を起こしたんだと思ってた。
 俺の一番の客になってくれたから。
 その時は。
 コイツは、世間知らずの莫迦なんだとも思ってた」

 元、お医者さんだった男(ヒト)は眠り続ける、紫音を診ながら言った。

「……ついでに、今も莫迦だと思っている……
 ……この大莫迦野郎は……全部判ってて俺の薬に手を出しやがっていたんだ………!!!」

 まるで、吼えるかのように、薫ちゃんは、叫ぶ。

「由香里の身体のコトも!
 俺達の家の事情も……!!
 それだけじゃねぇ!
 俺がどんな薬を、勧めているかもすべて、判った上だったんだ!!!」

 その目には。

 涙に見える輝きが見える………!





 わたしは。




 はじめて、見た。





 オトナの男のヒトが、こんな風に泣くのを………