「お金って……!
 お医者さんって、フツー元々お金持ちなんじゃ……!?
 なのに、何でお金がそんなに、いるのよ!」

 わたしの言葉に、薫ちゃんが、軽く肩をすくめた。


「駆け出しの医師の月給なんか、そこらのサラリーマンと変わらない。
 ……いや、夜中丸々働く当直が無ければ、もっと安いか?
 そして……」

 薫ちゃんの瞳が、鈍く輝いた。

「あんな安月給だけじゃ……由香里を。
 ……俺の妹を、支えてやるコトなんか………
 …………できなかったんだ」

「由香里さん……を?」

「そうだ」

 薫ちゃんは、自分の手を白くなるほどに、握った。

「由香里は。
 難病指定にも入らないほど珍しく、確実に死に至る病を患っていた。
 珍し過ぎる病には。
 国からも……他のドコからも支援も援助もない。
 だから治療のためには……莫迦みたいに金がかかったんだ。
 それに。
 ……夜になると強い痛みが出て来ていたから……
 治らないコトが判っていても……
 どんなに金がかかっても、治療を止めるワケにはいかなかったんだ……っ!」

 薫ちゃんは、手のひらを傷つけるほど、堅く握った拳で。

 紫音の眠るベッドの端を強く叩いた。