薫ちゃんが、部屋を出て行くと。

 わたしは、紫音の眠っているソファベッドの端に、腰をかけた。

 ……眠っている。

 そう言われれば。

 確かに眠っているように見える。

 だけど。

 穏やか、と言うよりは、細く弱い呼吸が。

 なんだか、とても、痛々しかった。

 目を覚ましている時は、黒虎や豹のような危険な獣に見えるのに。

 鋭く輝く瞳が閉じられると。

 いきなり、子猫のように……まるで少年のように、幼く見えた。

「……らいむみたい……」

 思わずつぶやいて、自分の口を手で押さえる。


 もし、聞いていたら、怒る……かな?

 少しだけ乱れた髪を直すように。

 起こさないようにそっと、撫でながらわたしは思う。


 眠りたく無いほど。

 夢を見たく無いほど。

 ツラいコト、あったんだね。

 紫音の現在(いま)の状態は。

 薫ちゃんが考えているよりも、はるかに大変だ。

 紫音の昼間のお仕事は。

 午後からのんびり始まる塾の、臨時講師なんかじやない。

 ……全日制の私立高校の教師、なのだから。