私は研究論文についての相談やら文学作品研究に関する質問やら何かと理由をつくっては毎日のように先生の研究室に足を運んでいた。


ただ単純に、先生に会いたかっただけなのである。




「今日は手ぶらかい」


「だって会いに来ただけですから」



先生は「ふむふむ」と数回頷いて、思案するように回転椅子の背もたれに寄りかかり、天井を見上げた。


先生の椅子はこれまた古びているが、私の座っている椅子より柔らかそうな素材である。