史歩は彼らを二股にかけていた。
他の部員たちが遠巻きに見る中、倒れこんだ川霧の背中の血を史歩は先生と共にタオルで抑え、服を血だらけにして泣き叫んでいたという。
高橋は包丁を投げ捨てると、トイレに逃げ込み、そこで警官に確保された。
夏の夜の校庭に救急車とパトカーが押しかけた。
何事かと付近の住民が大勢集まった。
病院に搬送された川霧は死ぬことはなかったらしい。
しかし、川霧はもう学校には戻ってこなかった。
新聞にも記事が出た。
加害者の高橋と問題の発端となった史歩はすぐに退学処分になり、夏休みが終わっても登校することはなかった。
史歩は女優のように涼しい、整った顔をしていた。
かしずいてくれる男が好きだった。
女友達はおらず、学校内で付き合う男をよく変えていた。
誰も彼女に同情などしなかった。
すずも学校名が新聞に載り、迷惑だとしか思わなかった。
演劇部は廃部となり、学校から史歩と高橋の痕跡は完全に消された。
関係者は進学や就職への影響を一番恐れ、この事件を黙殺した。
三人がその後、どうなったか誰も知らない。