「つまり、日向に昔の記憶がなくて自分でも正体が分からないという事か。」

「うん、ごめん…。」

サルスの言葉に日向は思わず謝った。

「お前が謝る事じゃない、それにサルスも責めた訳ではない。気にするな。」

予想外の素早い千羅のフォローに日向は少し照れたように笑って頷き、思わぬ千羅の優しさを見た瑛琳は微笑む。

そしてサルスは頭を掻きながら申し訳なさそうに言葉を足した。

「言い方を間違えた、悪かったな日向。」

「僕の方こそ!」

両手を突き出して問題ないことを全力で表現する、そんな日向の素直さに貴未が嬉しそうに笑い声をあげた。

悪い人ではない、そんな確信を皆がもちそうになったその時だ。

「…和んでるとこ悪いんやけどな…。」

和やかな空気が流れ始めた部屋の中で、聖の声が鋭く響いた。

一気に視線が聖の方へと集まる。

彼はどこまでも慎重に空気を読み、言葉を選びながらもう一度口を開いた。