「記憶喪失はいつから?」

「分からない…気付いたら森の中に立っていたんだ。長に拾われた。」

時を待っていたかのように振られた千羅の質問に日向は首を横に振る。

「長?」

「その辺りを縄張りにしていた山賊の長だよ。っと。」

口調がなれなれしくなってしまったのを気遣い、反射的に日向は口を押さえた。

その仕草がとても微笑ましく、千羅は穏やかに笑う。

「構わない。自分の話しやすいように。」

千羅は手でも続けるようにと促した。

照れ笑いしながら頭をかく日向に全くの敵意はない。

信じられなくても警戒せずに臨機応変にやっていこう、少し休むのもいいかもしれない。

そう思えた瞬間でもあった。

「言葉も分からなくて、子供が物事を覚えていくように僕は過ごしたんだ。長には本当にお世話になった。」

「いい人にめぐり逢えたな。」

千羅の言葉に満足そうに微笑むと、その目を逸らさずに千羅に向けて言葉を続けた。

「今も僕はめぐり逢いを感じてる。まさか、こんな形だけど仲間に会えるなんて。」