「国民の安全を守るのはあんたらの責任だろうが!」

それはカルサにとって聞き流してはいけない言葉だった。

カルサが口を開こうとした、その時と同じくしてハワードはすぐに言葉が放たれた方向を見つめて声の主を探す。

人々は初めて見せた老大臣の反応に驚き動揺をした。

あんなに盛り上がっていた不満の合唱が電源が切れたように静まる。

「な、なんだよ。」

ハワードに見つめられていた先の男は思わず自ら反応してしまった。

群れや流れにのっていたのに、一人にされると弱くなってしまうのが人間の心の弱さなのかもしれない。

自分の発言に反応されたという焦りが彼の鼓動を速くさせていた。

ハワードは怒る訳でもなく、声の調子も荒立てず、さっきまでと同じ様な口調で静かに思いを言葉にし始めた。

「どこまでを指して言っているのかは分からないが、もしここにいる女官や兵士を含めているのであれば取り消して貰いたい発言だ。」

「なに?」

「国民の命を守る責任があるのは王や私たち大臣だ。国を守る義務があるのは王や私だ。兵士や女官たちには何の義務もない。そこは絶対に間違えてはいけない。」