女官も両手を口に当てて目を大きくする。

仕事に戻るよう促す動作をしたナータックに頭を下げて持ち場に戻っていった。

「どうしますか?」

「もしもの為に待機だ。それまでは口を開くな。」

腕を組んでハワードを見つめるカルサは視線を動かさずにナータックに指示をした。

マントなど明らかに地位を表すような装飾は付けていない服装で助かった。

これで暫くは気付かれることなく大衆の中に紛れることが出来るだろう。

カルサの存在に気付いていないハワードは、取り巻く野次馬を縫うように進みその中心へと辿り着いた。

当事者の男性は近付いてきたハワードに嫌悪感を抱き、さっそく文句を付け始める。

威圧感のあるその存在に多少萎縮しながらもやはり苛立ちの方が勝ったようだ。

「何だ、お前は!?」

空気が変わったことにどよめく民達を背中で感じながらハワードはゆっくりと瞬きをした。

大きく声を荒げたこの人物がおそらくはことの起爆となった人物なのだろう。

辺りを見回してみると既に冷静さを取り戻した者が多い中、彼が一番興奮しているようだった。