鼻歌でも歌えそうな表情で次々に書類を処理していくではないか。

そんなカルサに見惚れるばかりで自分の仕事が進んでいないことにナータックは気付いた。

これではいかんと、慌てて紙面に集中する。

しかし、さらに彼の手を止めるように来客を知らせるノック音が部屋に響いた。

「失礼します。ナータック殿に言伝てを預かっております。」

その声に立ち上がり、ナータックは扉の方に向かった。

扉を開けて立っていたのは女官長であるフレイク、ふっくらとした顔に年を重ねた分のしわを刻んだ優しい印象を与える人物だ。

「フレイクさん。」

「こんにちは、ナータック。貴未から陛下に言伝てを…。」

「中にいらっしゃいますよ。」

フレイクの笑顔に答えてナータックは扉を少し広く開けた。

長年城に仕えているフレイクはカルサの育ての親の一人のようなものだ。

彼女ならカルサも直接言葉を交わすだろう。

「陛下、女官長フレイク殿です。」

ナータックの説明にあわせてフレイクは頭を下げた。