「あぁ、そうだ。この因縁の始まりを聞いたのか?」

「一人の人間が生み出した、くだらない争いだと。…そう聞きました。」

リュナの両手は前で組まれたまま、しっかりと握り締める。

あえて伏せた名前にジンロはどう反応するだろうか、目はまっすぐに彼に向けられていた。

ジンロは避ける事無くリュナの視線を受け入れ、彼女の思いも昨夜のカルサの様子も感じ取ったようだ。

「あいつらしい。確かに…くだらない争いかもしれないが、状況はもっと複雑だ。一人の人間だけではこうはならない。」

ジンロは切なそうに笑う。

一瞬の遠い目、しかし直ぐに戻り真剣な顔で語りだした。

強い眼差しにリュナは思わず肩を震わせる。

「カルサが全てを語るには時間がかかるだろう。それだけに思い出したくない出来事なんだ。待っていてやってくれるか?」

ジンロの言葉にリュナは頷いた。

「はい、勿論です。」

優しい表情、彼女は本当にカルサを想ってくれているとジンロは確信した。

迷いのない答えはきっと彼を救うだろうと、その希望があるだけでジンロにとっても救いだった。