「でも彼を倒さなければそうはならない。シードゥルサみたいに魔物が現れるようになってからだと遅いんだ。」

リュナの耳の近くで金属音がする。

剣の柄を握るカルサの手に力が入ったのだ。

溢れ出しそうな感情を抑えて必死に彼の言葉に耳を傾けた。

やっと聞けるカルサのありのままの気持ちを一言も聞き逃してはいけない。

「神だ何だと言って…英雄になる気なんか最初からない。それこそ神話のような絵空事だと思ってくれた方がよっぽどマシだ。」

現実にはない空想の物語だと、他人事のように笑ってくれる世の中なら平和でいい。

カルサは一番にそれを願っていた。

誰も巻き込みたくない、出来ることなら自分一人で終わらせたい。

「お前のことも…巻き込みたくなかった。」

風神として現れた日から自責の念にずっと悩まされていた。

リュナが笑う度、力になりたいと訴える度に言い出せなくなる。

そう思うのと同時に戦いにおいての心構えや技術を身に付けさせる自分もいた。