「…懐かしいですね。」

「えっ?」

クスッと笑いながらナータックはそのまま筆を走らせた。

「幼い頃を思い出します。よく母が掃除する傍らで勉強をさせられました。」

穏やかだったあの頃を思い出してナータックは最近の忙しさに慣れてしまったことを痛感した。

城に上がってからは里帰りも数える程しかしていない。

最後に便りを送ったのはいつだったか、地位が上がるにつれて気持ちも故郷から離れていった。

当たり前と言えば当たり前のことなのだが、この懐かしい空間に触れてしまったことにより少し心が揺れる。

そして後悔もする。

元気でいるだろうか、心配していないだろうかと。

「ナータックさんは、どんなお子さんだったんですか?」

女官の落ち着いた優しい声にナータックは筆を止めた。

幼かった自分を思い出してまたクスリと笑う。

「今と変わらない、おとなしい子でしたよ。控え目でね。」

「まあ。」

はぐらかすような言葉に二人は笑った。