バルコニーから地上までの距離は決して近くはない。

しかしカルサは難無く風を操るように、ゆっくりと着地した。

髪がふわりと重力に従い落ちてくる。

カルサはもう一度隣の部屋のバルコニーを見上げて目を細めた。

勿論そこに彼女はいない。

切なそうに微笑んだのは気のせいだろうか。

建物に背を向け、水の音が響くのを感じながら庭を歩き始めた。

庭とはいえ、深い所はそのまま森に繋がる場所も多い。

カルサは目的の場所を目指すように、躊躇うことなく深い、森に繋がる方へと足を進めていった。

所詮、庭の延長なのでそこまで深くはならないが、それでも周りの雰囲気はがらりと変わった気がする。

空気も少しずつ冷えてきたようだ。

しばらく歩くと樹齢が高そうな樹がそびえ立っていた。

惹き付けられるように近付き、カルサは幹に片手をあてて目をつむり鼓動を感じてみる。

そこに生命以外の音は存在しない。