「私が憎いかい?」
「……」
何も答えない。
イヴはロイの肩を躊躇いがちに叩いた。
「ロイ、挑発に乗っちゃダメ。連れていかれちゃう!」
「連れて……え?今何て言った?」
一歩下がり、イヴの方を向く。
彼女は窓を見たまま固まっていた。
つられてロイも窓の外を見る。
「なっ……そんな……!」
言葉が喉をつっかえて、上手く出てきてくれない。
ロイはその光景を見て、陸に乗った魚のように口をパクパクさせることしか出来なかった。
窓の外は真っ暗だった。
波立つ湖面も、月を覆う紫色の雲も何も見えない。
一面にあるのは、漆黒の闇。
そこから伸びた無数の"手"が、窓を叩き割ろうとしていた。