『何をそんなに苦しそうな顔をしている?』
ロイの耳に、低い声が届く。
聞き慣れたような、例の声。
それでも彼の顔は険しいままだ。
『イヴの事は分かった。彼の者の言葉を聞いた以上、彼女を見殺しにするわけにはいかない』
「……」
『主らを助太刀する。あの者は、我等の言葉を届けてくれる唯一の存在だ』
「……ありがとう」
どうやら、先程のロイの言葉が通じたらしい。
人ならざるモノだが、徐々に味方が増えていく。
ロイは小さく呟くと、グランド公へ目を向けた。
そして、ニヤリと笑う。
「風は私達に吹いている?それはどうかな?」
ロイの啖呵が号令となり、鎧が一斉に各々の武器を構える。
ロイではなく、彼を取り囲んでいる人達に向かって。
「手懐けたか、悪魔の子。忌々しい」
グランド公の顔が、初めて歪んだ。
彼は剣を構え、ロイの方へ駆け寄ってくる。
それが口火となり、広間は騒然とし始めた。
和を乱す異端分子を排除する為に。
或いは、この世とあの世の調和を戻そうとするために。
はたまた――己の正義を押し通すために、彼等は剣を取った。