沙紀が向かった場所とは、あの中庭だった。
朝、沙紀からカップケーキをもらった場所。
沙紀は中庭が好きなんだ、と思わせる。
「司先輩!」
その時、沙紀の声が聞こえてきた。
沙紀はあいつの名前を呼んだ。
いつもより高い声で。
嬉しいのか、それは分からないけど、可愛い声だ。
「…つ…かさ…」
沙紀をこんなにも嬉しくさせるのは、司だ。
その声を聞いてしまった俺は、歩けなくなってしまう。
力が抜けてしまって…。頭の中に浮かんでくる、二人の光景。
見なくたって分かるよ。他人が羨むくらい、ラブラブなんだろ?
「珍しいですね、司先輩が学校で会いたいって言ってくるなんて!」
沙紀の声が、俺を苦しくさせる。
聞いたことのない、可愛い声が俺の心をバラバラにしていく。
ぱりん…とお皿が割れるかのように。
「どうしても会いたくてさ。なぁ、沙紀…
他の男に、お菓子なんてやるなよ。俺だけにしてよ、そういうことするの…」
聞きたくないよ…。