この先は言わない。
今言ってしまうと苦しくなるから。
だって沙紀にはちゃんとした彼氏がいる。
俺は認められないけれど、彼氏と呼べる存在がある。


そいつは俺の大嫌いなヤツ。



運命は少しずつ、ゆっくりと動いていた。



オレンジ色をした空を真っ直ぐ見上げる。



「今日はいい日だったな…」


まだ一日が終わっていないのにも関わらず、こんな言葉を漏らしてしまった俺。
夜はまだこれからだと言うのに…。



「…歩、ちょっといい?」



その時、後ろからある人の声が聞こえてきた。
その声を聞いた途端、背筋がぞっとした。


まるでなにかに怯えるような。




「…なんだよ、司…」



後ろを振り返るとやっぱり司だった。
司は不気味なくらい満面な笑みで俺を見ている。


近づく司。


俺は逃げることが出来ない。
なぜならば、後ろにはフェンスしかないから。



「お前、人の彼女を奪うつもりか?」





空には、ぽつんと寂しそうな月が姿を現していた…。