俺はしばらくこの場所から動けなくなってしまった。
動こうとしても体が従ってくれない。

下を向いて、唇を噛み締めていた。


ふと俺の視界に入ったあるモノ。
それは誰かの足だ。
この上履きの色は、三年生。
黄色のラインが全然汚れていない。
まるで人柄を表しているよう。


顔をゆっくり上げていくと、そこには笑顔の司の姿があった。
その姿を見た俺は一歩後退りしてしまう。

驚いたからだろうか?
罪悪感だろうか?


よく分からない。



「久しぶりだな、歩。
今朝は驚いたよ。まさか歩に見られるなんて」



優しい笑みを溢しながら、今朝の出来事を話していく司。
正直、俺は司のような優しい笑顔で一緒に笑えない。
あのあとのことが脳裏にちらついているから。



「…生徒の代表が隠れてキスなんかしようとすんなよ。」



「じゃあ、堂々とキスしたら、お前はなにも言わない?」



こう言ったあと、司から笑顔が消えて、明日香と同じ、怖い表情となった。



人間は、他人には決して見せない内側の表情を隠しもっている。