じゃあ逆に、抱きしめてキスをしたら沙紀は怒らないかな?

そればかり考えている俺って、変ですか?



耳に入ってくる笑い声。どくん、という心臓の音の方がうるさくて、沙紀の声が聞こえにくい。

俺は沙紀の声が沙紀の声が聞きたいだけなのに。


ずっと沙紀を見つめていると、沙紀が俺の視線に気づき、目が合った。
沙紀の瞳はなにかを訴えているようで、俺はその瞳の意味をこう受け止めた。



《見ないでよ。どっかに行って》



そう言っているように見えたんだ。



けど、ここで諦めるのは嫌だ。
自分に負けた気がするから。



沙紀が俺から視線を反らし、俺の横を通っていく。
その時俺は沙紀の腕を掴み、無理矢理引き止めた。


俺はもしかしたら無理矢理の行為が好きなのかもしれない。

軽蔑されるかもしれないけれど、それが俺の魅力のひとつなのかもね。



ぎゅっと握る沙紀の腕。その腕は丁度いい細さだった。
けど、伝わってきたんだ。


沙紀の腕が小刻みに震えていると。