そんなの願い下げだ。
罵声を浴びせられるくらいなら、無理矢理沙紀を奪って渡米してやる。
「あのさ、頼むから…」
困った表情を見せながら、明日香にお願いをしようとする俺。
その時、明日香が口を開いた。
「大丈夫。沙紀には言わないよ。沙紀は私の親友だからね。」
今度は優しく笑う明日香。
その笑顔を見た俺は心のどこかでほっとしていた。
けどその安心感は数秒で破られる。
「知ってる?歩くん。
人ってね、利用するために生まれてきたんだよ」
誰かに胸を銃で撃たれたような気がした。
それくらい明日香の言葉が衝撃的で、なお痛々しい言葉だということ。
明日香は外見ではお人好しな優しい性格だと思ったのに、内面はそれと逆だった。
《人は利用されるために生まれてきた》
不覚にも、納得して頷きそうになった俺がいた。俺も明日香を利用しようとしていたから。
けどこの時の俺は人間としてまだまだ未熟で、人間の価値など分かっていなかったんだ。