俺より少し低い背の明日香を見下ろして、生唾を飲む。


見られていたのかも。
俺たちの密会現場。

いや、密会ではないんだけど。
俺たちはそういう関係じゃないから。
一方的に俺がしたこと。

「知ってること言えよ」


すれ違う人と何回か目が合う。
この光景が妙だからか?そんなの、ほっとけよ。


「…沙紀は司先輩の彼女なのに歩くんは手を出すんだね?」




こう言って俺の顔を覗き込んで、また怪しく笑った。
この言葉を聞いた瞬間、背筋がぞっとした。


明日香の表情が怖くて。なにかを企んでそうな…

人ってこんな怖い表情をするのだ、と初めて思った。


それと見られていた。
沙紀とのキスシーンを。
ドラマのように印象的なキスシーンではなかったのに、明日香の中では印象的だったのだろうか。

見られていた。
その事実が俺を苦しめる。

このことを知った沙紀はどうなる?
司の耳にも入ったら?


俺は卑怯モノだと罵声を浴びせられる。