教室にだんだんと人がいなくなっていく。
部活に行ったのかもしれないし、帰ったのかもしれない。
沙紀の姿は既になかった。
俺から避けていると言わなくても分かる。


俺はじっと俺の顔を見つめる明日香を見つめ返していた。


なにか知っているのか?
その怪しい笑みはなに?


「…どういうこと?」



「その理由聞くの?ここで?」



明日香の話をここで聞くのはまずい。
誰かに聞かれるかもしれない。
聞かれたら学校で生活できなくなる可能性もある。
そうならないように、キスなんかしなくても良かったのに、してしまったのだから仕方ない。

止まらなかったんだ。
俺の欲情が。


学校が終わったらすぐに帰ろうとしていたのに、明日香のせいで計画が崩れていきそうだ。


俺は明日香に「ちょっと来て」と廊下へと呼び出す。



まだ肌寒い気温。
廊下の冷たい空気が悪いのか、今から話す内容が楽しい内容ではないからだろうか。

いずれにせよ、この廊下も世界のように冷たいということだ。