「あんたに呼び捨てなんかされたくない!!入らせてくれないならいいよ。後ろから入るから」



頭の中に描いていた計算式が見事に破られてしまった。

なんで俺は沙紀を怒らせることしかできないのだろう?
大人になってもこのままなのかな。
俺がまだガキだから…


忘れていた。
沙紀は司が大好きだということを。
大好きだからキスをしたいと言っていたばかりじゃないか。


バカじゃねぇの、俺。


勝手に計算なんかして、意地悪なキスをしただけで舞い上がって。

自分の無様さに笑えてくる。



沙紀は怒りのオーラを漂わせて、俺に後ろ姿を向け、後ろのドアから教室に入っていった。
取り残される、俺と明日香。


明日香は沙紀のあとを追わずに、俺の前で止まったまま。


「歩…くん?」



「あいつって意味わかんねぇよな。」



苦笑いをし明日香を見て、俺も教室の中に入っていく。
沙紀は一人で窓から空を眺めていた。



教室なんて、この世界に比べたら狭いものなのに、どうしてお前との心の距離は、こんなにも遠いのだろう。