「歩…俺行ってくる…」
優は俺の手を胸ぐらから離し、立ち上がった。
俺はそんな優を見上げる。
今の優が今までで一番輝いていた。
「おう、行ってこい。俺は帰るからさ」
「さんきゅ…歩、お前に話して良かった」
笑顔を見せる優。
その笑顔は無くなる前に見せていた笑顔だった。
お前の笑顔は何も変わっていないよ。
さらに眩しくなっているよ。
優なら大丈夫だから。
「泣かせるようなこと言うな。早く行けよ」
「行ってくる!歩…ありがとな!」
やめろよ、泣けてくるだろ。
俺は礼を言われるようなことはしていない。
行動をするのは優自身だ。
だから優の中が変わったということ。
俺は口出しをしただけ。
「頑張れよ!じゃあな!」
走り去っていく優の後ろ姿に向かって、言葉を投げる俺。
その後ろ姿が、とても逞しく見えた。
どうか、どうか、
優の思いが伝わりますように…。
俺は空を見上げてこう呟くのだ。
「幸せになりますように…」
弱者と強者。
正反対な言葉に思えるけれど本当は同じ言葉なんだ。
弱い者は必ず強い者になれる。
それは努力をするかしないか。
優は誰よりも努力をしただろう。
幸せを手に入れるため、走っていったんだ…。
愛する人のもとへと。
そして優はある人を選んだ。
それは小林。
その答えに俺と沙紀は素直に受け入れた。
けれど、神様ただ一人は笑ってはくれなかった…。