沙紀の部屋の前で立ち止まり、呼吸を整える。
そして『よし』と意気込み、部屋をゆっくりと開けた。


ノックを忘れてしまった。
早く会いたい証拠だよ。



部屋のドアを開けると、すぐ目に映ったのは、沙紀がベッドで寝ている光景だった。
寝ているのかな?
起きてるのかな?

ここからでは分からない。


静かに歩き、沙紀に近づいていく。
沙紀の顔を覗くと、彼女は寝息をたてて気持ち良さそうに寝ていた。
おでこには冷えピタを貼って。


その愛くるしい寝顔を見ていたら、なぜかキスをしたくなってしまう俺。

おでこには冷えピタ。
キスは出来ない。
だから俺はピンク色に染まっている頬にキスをしたんだ。


起きてしまうかな?
そんなスリルを抱きながら。



「…沙紀…起きてよ…」


耳元でこう囁くと、沙紀は寝返りを打ち、こちらに顔を向ける。


長い睫毛。
小さな唇。
小麦色の肌。



「可愛いね…」



誰かに聞いて欲しくて声に出して言ったわけじゃないよ。



ただ改めてそう思っただけ。