もしそうだったら嫌だな。
だって俺たちはもう他人なんかじゃないし。
こう思っているのは俺たちだけなのかもしれない。


元々広瀬は一匹狼タイプ。
班決めのときだって、たまたま余っていたから俺たちのグループに入ったわけだし、広瀬は嫌だったのかもしれない。


そう考えると苦しくなった。


今、優は大丈夫なのだろうか?
広瀬を救えているのかな。



「…そうかな?広瀬はあまり人と話すのが得意じゃないのかもよ?」



「どうかな。あたしはナナを知りたいのに。なんか…ナナってさ…」




沙紀が言った言葉がずっと離れなかった。



心の壁はどうしたら無くなるのでしょう?



俺には答えすら見つからなかった。
けど優は見つけたようだね。



真っ直ぐ俺を見つめる沙紀。
その瞳の奥には母親のような眼差しがあった。




「ナナは壁がある。見えない壁が。これが邪魔をしてナナ自身が見えないの…」




薄い壁かもしれない。
厚い壁かもしれない。


けれど壁は壁。
これが壊れない限り、その人間の中身が見えてこない。