目を反らすなよ。
現実から逃げるなよ。
「歩、話し聞いてくれてありがとな。じゃ俺部活だからまたな」
安里は最後に今までで一番いい笑顔を見せてくれた。
その笑顔を見た俺は、体が硬直してしまう。
まるで女になったようだ。
この笑顔に女は殺られるわけね。
「じゃあな!安里!!」
手をひらひらさせて去っていく安里。
俺はその背中に向かって「幸せになれ」と心の中で叫んだ。
そして教室に戻る。
教室には調理の本を読んでいる沙紀だけがいた。さらさらな髪の毛が夕日に反射して更に艶やかにさせる。
俺はしばらく後ろからその姿を見ていた。
綺麗だ。
可愛いね。
そんなこと前から知っているよ。
今日はあの言葉を言いたいな。
沙紀に近寄り、後ろからぎゅっと抱きしめる。
「え!?あ、歩!?なによ、急に」
抱きしめたくなったんだよ。
俺は耳元で囁くのだ。
「沙紀…好きだよ…」