その時点でもう引き返したいくらいの思い。
けど今日を楽しみにしていたわけだし、ここで引き返せるか。



「沙紀、行くぞ!しっかり手を握っとけ!」



歯を見せて沙紀を安心させるように笑う俺、
沙紀はこの人混みを見て、何を感じたのか分からないが、少し疲れた表情をしていた。


やはり思ったことは同じ?


以心伝心だね。



沙紀の手をぎゅっと強く握り、前へと進んでいく。
次第に聞こえ始める、祭りの音。
輝くのは露店の光。


けれど人は増える一方。


ずっと沙紀の手を握っていた。
沙紀も俺の手を強く握っていた。



離れないよ、俺たちは。



「花火っていつからだっけ?」



「あと少しだよ。けど近くでは見れないね。」



確かにそうだ。
花火が行われる場所はすでに人でいっぱいだろう。
そこでゆっくりと花火を見ていられない。



俺と沙紀は人混みが嫌いだからだ。



「じゃあ静かな場所で見よっか。」