目の前には浴衣。
そして寂しそうに片付ける富田がいる。
着るべき?
着ないべき?
沙紀が頭に浮かぶ。
目を閉じて想像するのだ。
沙紀の反応を…。
『すごいかっこいいよ。歩…』
笑顔の沙紀が俺に釘付けとなって…。
「ちょっと待った!」
俺は片付ける富田の手を掴み、片付けを阻止する。
驚いた表情を見せて『どうかされました?』と富田は言った。
それは富田の中の計算だったに違いない。
なぜならば、富田の笑顔の裏側には怪しい笑みがあったから。
こうなると予想していたような。
「着る!着るから手伝え!!時間がねぇから!!」
沙紀を驚かせたい。
待ってろよ、沙紀。
やはり浴衣は着なれていなくて、着心地は良くない。
けれど鏡で見た自分の姿がさっきまでとは違う姿に見えた。
浴衣パワーなのかな?
髪の毛をいつもより念入りにセットをし、沙紀が来るのを待つ。
そして、時間が来た。
「歩さん、沙紀さんがお見えになられました」
富田が俺に知らせて見送る。
下駄を履いたら完成だ。
ゆっくりと玄関のドアを開ける。
そこには、髪の毛をアップにし、ひまわりのコサージュを付けて、黄色の浴衣に身を包んだ、沙紀がいた。
可愛い、可愛すぎる。
「…沙紀…」
愛を深めたかった。
けどこの日、打ち上がった花火がすぐ散っていくように、優の恋も儚く散っていったんだ。