俺は沙紀の浴衣姿を楽しみにしているんだよ。
何で自分が浴衣を着なきゃいけないんだ。
やめてよ、誰が頼んだよ、そんなこと。
「嫌だ。誰が着るかよ。恥ずかしいって」
溜め息を漏らして、ベッドに座る俺。
外から漏れてくる、人々の声。
もうすぐ祭りが始まる。沙紀が家まで迎えに来るまであと一時間。
それまで俺は粘り続けるのか?
絶対折れてしまいそう。けど着たくない。
だって暑いし、動きにくいし。
「浴衣姿の歩さんを見た沙紀さんは何と言うでしょうね?歩さんのことをもっと好きになるのではないでしょうか?」
富田の寂しげな声が響く。
唇を噛んで、聞こえないフリをする俺。
けど待てよ?
もし浴衣を着て沙紀の前に現れたら沙紀は絶対喜ぶはずだ。
富田の言う通り、俺のことをさらに好きになってくれるかもしれない。
前に沙紀が言っていたことを思い出す。
『浴衣の似合う人が好きだ』と言っていた。
それはメンズ雑誌のモデルを見て漏らした一言。そのモデルたちも浴衣を着ていたっけ…。