安里は本当にいい奴なんだ。
安里の話を聞いたら、安里の恋も応援したくなったけど、優を裏切ることは出来なかった。



だからあの日、俺は自分が出来ることをした。
それは安里の背中を押したこと。




それは、突然やってきた。
クラスにもだいぶ慣れて、桜の木には花びらが一枚もなくなり、梅雨明けがする少し前の頃だった。



いつもと同じ時刻に学校が終わり、俺は帰る支度をしていた。


毎日毎日雨で憂鬱だったが、もうすぐ夏が来ると思うと嬉しくてたまらなくなる。



「歩、ごめんね。あたし部活あること忘れてて…」



朝から何度もこのことで謝ってくる沙紀。



「大丈夫だって。俺はガキじゃないんだし、一人で帰れるって」



今日、沙紀は調理部の部活があることを忘れていたらしい。
だから一緒に帰れないのだ。
本当は寂しかったけどね。



「本当にごめんね。終わったら連絡するから…」



沙紀は俺に手を振り、教室から出ていく。


憂鬱だ。
優と帰ろうと思ったけど優はいつの間にかいないし。
バイトかな?



しょうがない、一人で帰るか。



「歩、今日時間あるか?」




深刻そうな表情を浮かべてこう言ったのは安里だった。



安里、お前も優と似てるよ。


お前の気持ち、受け止めたから自由になっていいよ。