どうして離れるんだ。
好きなら傍にいてやれよ。
夕日に染まる優の背中を俺はしばらく放心状態のまま見つめていた。

やりきれない、この思い。
優を追いかけて、問い詰めることだって出来たはずなのに、出来ない俺がいた。


俺は拳を作り、ぎゅっと力を入れた。
行き場のない怒り。
それを沙紀に当てるわけにもいかなかった。


かしゃん…とフェンスが揺れる。
俺は視線を足元に落とし、唇を噛み締める。



「歩、どうしたの?」


背後から聞こえてくる沙紀の声。
それと同時に、背中から沙紀の温もりが感じられる。



「なんかさ、俺って無力だなって。…何で伝わらないんだろう…」



泣きそうになった。
優のことを考えれば考える程泣けてきた。
優もきっと辛いんだろうな。
俺のように伝わらなくて、必死にもがいているんだな。




「歩は、無力なんかじゃないよ…」




沙紀の言葉が余計苦しさを与えた。
沙紀はきっと言葉を選んで口に出しているはずだ。


けど、ごめん。


苦しいよ。