お前のやるべきことはここまでだ。
俺を最後まで送り出したいのなら、まず身なりから変えてくれ。
下ろし立てのようにピカピカの革靴を汚し、整えられた髪の毛を乱して、疲れたサラリーマンを装おって俺の後を静かに着いてこればいい。

そしたら何も怪しまれることはないはずだから。

そんなこと、お前には出来ないだろ?富田?



ドアのロックを外して、汚れた靴を外に投げ出した。
そして地面に足をつける。
地上を感じるために。


太陽の日差しが車に反射をする。
その光が俺の瞳に侵入してきて、眩しさを与えた。


すると、運転席の窓が同じ速度で下がっていく。


窓から顔を出したのは当然富田だ。



「歩さん、帰りは何時頃になりますか?夜は危ないので迎えに行きます」



…俺は女か。
危ないって…。
性別さえも否定するのか。



「帰りはいいって。
お前は親父の荷物でも運んでろよ」




富田を見下ろして、俺は足早に車が向かう方向と逆の方に歩いていく。