クラシックは落ち着きを与えてくれる?
何言ってんだよ。
そうかもしれないけど、今言うことかよ?
まるで俺が落ち着いてないみたいじゃねぇか。
沈黙する車内。
響き渡る、静かな音色。
鎮まることのない怒り。俺は長年世話になっている富田にも嫌われてるのだ、と実感したようだった。
「歩さん、今日から先生はアメリカに行かれますので」
富田が言う《先生》とは親父のことだ。
なぜ先生と呼ぶのかというと、親父が富田を若手弁護士に育てたからだ。富田はずっと親父のことを《先生》と呼んで、慕っている。
俺には関係のない話だけど。
若手弁護士なのに俺の世話係なんか引き受けていいのかよって思う。
笑っちゃうよ、
お前の生き方に。
「ふーん。あっそ。親父がいない方が俺にとっては有り難い話だよ」
「歩さん、いつも言ってますように、先生は立派な方ですよ」
ミラー越しに富田と目が合う。
その目はどこか悲しそうで、俺はすぐに視線を反らした。