乗ってみれば分かるさ。
富田が後部座席のドアを開ける。
俺は重たい足を引きずりながら、車の中へ乗り込んだ。
ほんのり香る、甘い香り。
富田の愛用の香水の匂いだろうか。
まだ富田が若者だと主張しているよう。
確かに富田は若いのだ。今年で28だったっけ?
親父の今までの秘書の中では一番若い。
そして高級感の溢れるシート。このシートの柔らかさは好き。
けどここからが問題なのだ。
ここからが…
富田が運転座席に座りエンジンをかける。
それと同時に聴こえ始める…、クラシックの曲。
ゆっくりした曲調。
その音が俺を再び眠りの中へと引きづり込むんだ。
今日はベートーベンか。ってなに言ってるんだよ。
富田の世界へと入ってはダメだ。
富田も富田だよ。
どうしてクラシックを選択するのかが謎だ。
「富田、クラシックはもう聴き飽きた。違う曲にして」
「クラシックは落ち着きを与えてくれます。歩さんにはぴったりですよ」
お前、ふざけてる?