「沙紀…?」
二人が部屋を出て行ったのを確認し、沙紀の名前を呼ぶ。
沙紀はゆっくりと顔を上げて、俺を見つめた。
目にはまだ涙がある。
俺はそれを指で拭いてあげた。
「…泣くなよ。ありがとうな、すげぇ嬉しかった!」
沙紀に笑って見せると、沙紀も笑い返してくれた。
「別れろなんていきなり言われたら…急に悲しくなっちゃったの。絶対嫌って思って…」
俺だって嫌だよ。
絶対別れないよ。
だってキミは俺の運命のヒト。
「沙紀、さっきのやり直し。ちゅーしていい?」
欲望がまた芽生えだす。さっき、我慢をしたから今度はいいよね?
「ちゅーは嫌よ。キスがいい」
沙紀の言っている意味がよく分からない。
ちゅーもキスも同じ意味じゃないか。
「え?一緒じゃん!」
「違うわよ!キスはちゅーより愛が増すの。だからキスの方がいいの」
そういうことね。
頬を赤く染まらせて言わないでよ、滅茶苦茶にしたいと思ってしまう。
視線と視線とが絡み合う。
俺はゆっくり沙紀に近づく。
「愛がたっぷりなキスをするね…」
キスはちゅーより愛が増す。
俺は沙紀にキスをする。
愛は増したかな?
なぁ、優。
お前もこんな思いだった?
小林とキスをするとき、幸せだと感じたか?
俺とお前が出逢ったのは、桜が舞い散る季節だった…。